8にはジュースが有り8の後にジュース無し。


もう彼是15-6年くらい前に行ったのを最後にしてから
足を運んでいない店の事をふと思い出した。

あの店はまだ在るのか?

無性に気になり調べてみた。


「そういう物が好き」な層には、やはり思い入れのある店の様で
WEB上で簡単に情報が出て来た。

結果。
既に存在していなかった。

単に存在していないのでは無く「思い入れ」が断ち切りにくい形で無くなっていたのだ。

その店とは難波は道頓堀。
戎橋から見てグリコの看板の下辺りにある店でした。

派手な看板が並ぶ道頓堀の隙間に細い路地。
その奥に木枠でスリ硝子の扉。

そこが入口である。

扉には不愛想に「8」とだけ書かれている。
読み方は「エイト」。

何の店なのかは外見からは分からない。
完全に一見さんを拒否する店構え。

そここそが正に「伝説のミックスジュースの店・8(エイト)」なのです。

何故に8が「伝説」だったのか?

当時は現在のようにWEBは浸透していなかったし「街情報」は
今で云う「なんちゃらウォーカー」や「ぴあ」(ぴあも雑誌自体は廃刊になりましたね・・・)

もう少しディープな関西の街情報だと今は亡き「エルマガジン」
そのエルマガジンが出していた「ミーツ」等の雑誌や「花形文化通信」などのフリーペーパーが主体でした。
「ジャングルライフ」が発行されたのもこの頃。押し入れに確か創刊0号が有ったはず。

全国ショップ系だと「ゴメス」とかも有りましたね。

ちなみに「エルマガジン」は何故か読者層に学生が多く
少し年齢層を高く狙ったのが「ミーツ」でした。

そういった媒体には一切出る事も無く完全に口コミだけで
「なんか凄いジュース屋があるらしい」と好事家たちの間でだけ話題に
上がる店だったのです。

なにせ「店内撮影厳禁」「(一応)喫茶店なのに煙草厳禁」「おかわり厳禁」の店でしたから。
なので現在でもWEBを漁ってみても店内の写真は一切出て来ません。

極め付けは「ミックスジュース1杯1000円」!!
当時、貧乏学生だった僕は其の値段に驚きました。

学校に行く電車賃が無くて仕方なく吹田から心斎橋まで自転車で行く事も珍しくなかったので
コップ1杯の飲み物に1000円なんて憧れを通り越して怒りさえ感じます。

まして素性の分かりにくい店なのに。

それでも一度でいいから8のジュースを飲みたい!
そう思いました。

何故なら人伝えの人伝えのと正に「伝説」状態で「行った人の話」を聞くと


「とんでも無く美味い」


と言うのです。

店独自の暗黙のルールが有るが一度は飲むべき味。
そう刷り込まれる度に8への思いは高まります。

暗黙のルールと云うのは先に挙げた「喫煙」などの他に
「2人で行って別の物を注文すると怒られる」「店主に話しかけると怒られる」

そんな感じの事でした。

しかもジュース以外のメニューも実は存在していると噂も有りましたが
ジュース以外を飲んでる人を見た事が無い。と云う事で真実は現在でも分かりません。

もし美味しくなくても1000円は最初から無かった事にしよう。
と覚悟を決めて当時やっていたバンドのメンバーと2人で8に向かいました。

例の扉を開けると細く狭い店内。
カウンターには、結構な高齢のマスター(80代くらいに見えた)と奥様と思われる方の2人。

日によっては娘さんらしき人も働いてると聞いていたが
僕が行った時には見た事が有りません。

カウンターは3-4席。奥には道頓堀に面していて川面も見ながら座れるボックス席が1組。
なので全て座っても6席くらいと記憶しています。

店内は年季が入っていてカウンターには別珍張りのスツール。
席に着くと「何にするの?」と不愛想ながらも柔らかい口調でマスターに注文を聞かれます。

ミックスジュースしか無いと思っていたので少しキョトンとしていると
「今日はイチゴ、もも、バナナだけど?どれにします?」

なるほど!ミックスジュースなんだけどメインの果物を選べるんだ!

これで「2人で行って別の物を注文すると怒られる」の意味が理解出来ました。
カウンター内にはミキサーが1つしか見当たらないのです。

つまり1杯づつ別の物を作るのが「面倒」だったのでは無いでしょうか?

確かこの時は桃を注文したはずです。

ゆっくりと桃にナイフを入れ皮を向いて、その後一般的なミックスジュースの
作り方で作って・・・・と思ったら卵黄が投入されました!

で、容器の中身は見えないのですが「何か粉」をちょっと入れる訳です。
砂糖の容器は別にあったので砂糖では無い何かだと今でも思っています。

非常にゆっくりしたペースで作業するのですが(品が出るまで10分ほどかかった記憶)
御喋りしてたら怒られる様な気がして、その間じーっと作業を見ていました。

そして遂に出されたミックスジュース(ピーチ)!!


伝説は現実でした。



とても濃厚でクッキリとした味。
それでも清涼感のある味。

あれから15-6年ほど過ぎましたが8以上に美味しいミックスジュースを飲んだ事が有りません。
この時ばかりは素直に「これは1000円の価値が有るジュースだ」と思いました。

そんな8も現在はシャッターが下りたままです。

WEB上での情報だと2005年辺りに「しばらく休みます」と張り紙が貼られてから
一度もシャッターは開いてないそうです。

噂なので確かめようがないですがマスターが亡くなられたとの事。

シャッターが下りてから数年は「再開するのを待っています」と
「8ファン」が書いたと思われる付箋などが貼られていたそうですが

現在は、そういった物も無くあのマスターの様に不愛想に
「8エイト」と書かれただけの紙がシャッターに貼ってあるだけ。との事。

新しい店が入る事も無く「ただ閉まっている」
シャッターが開かなくなった本当の理由を知る術は無い。

いっそ新しく適当なBARなんかがオープンしてくれた方がスッキリと
諦めれるのかも知れない。

その存在の残り方も含めて、やはり8は

「伝説のジュース屋さん」

なのでしょうね。

水色時代

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